あっくんと生きる

あっくんと生きる

「左心低形成症候群」と診断された息子の闘病記+親の感情

左心低形成症候群の手術について

Sponsored Link

はじめに

さて,前回投稿した左心低形成症候群とはで述べたとおり,この病気を治療するには手術をするしかありません.ただし,完治させることはできません.残された健全な器官を有効に活用することで,循環系を機能させるというものだそうです.

www.akkun-ikiru.com

そこで今回は,左心低形成症候群とはの記事で掲載した図をもう一度振り返りながら,一旦手術の概要を確認していこうと思います.

本エントリの作成にあたり,コハクの特別な心臓, コハク.COMの説明を大いに参考にさせていただきました.実際の心臓の絵を使って非常に分かりやすく説明がなされています.ご自身もお子様の病気に思い悩む日々を過ごす中,このような記事をまとめていただいたことに,この場を借りて感謝申し上げます.

下記書籍も大いに参考にさせていただきました.

また,私は医学の専門家でも何でもないので,ここに記載した内容を保証は致しません.イラスト化している分,実際の心臓の挙動を正確に表していない記述もあると思います.あくまで,ご自身の理解と照らしあわせたり,参考にする程度に止めていただくよう,よろしくお願い致します.

完成形の確認

正常な循環系と左心低形成症候群の子の循環系の比較

図の左側が正常な循環系で,右側が「左心低形成症候群」の子の手術前における循環系です. 右側の循環系では,全身に血液を送ることができない様子が確認できます.

  • ポンプモデル Ver. f:id:MoriKen254:20160517192220p:plain

  • 心臓イラスト Ver. f:id:MoriKen254:20160528212810p:plain

※全身に全く血液が流れないという表現は,説明のため極端にしているものです.左心系の機能の程度は,個体差が大きいようです.

左心低形成症候群の子の手術前後の循環系の比較

次に,手術前後の循環系を比較してみます.

  • ポンプモデル Ver. f:id:MoriKen254:20160517192530p:plain

  • 心臓イラスト Ver. f:id:MoriKen254:20160528220753p:plain

後者で上半身と下半身が出てきました.手術の手順の説明上,「上大静脈」と「下大静脈」を区別する必要があるので,このような描き方をしています.後ほど然るべきタイミングで登場させます.

さて,残された右心系を左心系として機能させるように,巧みに,段階的に血管を付け替えていくことで,右側のような状態まで持っていく,そんなイメージです.

なんという手術でしょう.仮に大人の自分がこんな手術を受けることになったとしても,ゾッとしてしまいます.ましてや,生後間もない赤ちゃんに対してこのような手術を施すことが非常に困難なものであることは,素人でも想像ができそうです.

完成形に至るまで

一発でこの完成形に至るわけではありません.医学的な詳しい理由までは分かりませんが,多くの場合は大別して3回の手術を通じて,段階的に完成形に持っていくようです.「1. ノーウッド手術」「2. 両方向性グレン手術」「3. フォンタン手術」という流れになるようです.

「ノーウッド手術」の前に,「肺動脈絞扼術(肺動脈バンディング)」という手術を施すことがあったり,「ノーウッド+グレン手術」という組み合わせ系の手術を行うこともあるようです.このうちどの手法を取るかは,子供の様態,お医者さんの判断,その病院での症例等に応じて判断されるのでしょう.

各手術の概要

それでは,各手術はどのような特徴を持つのでしょう.私の理解している範囲で,イラスト化を試みます.

0. 動脈管の延命

「動脈管」は全ての胎児に備わっている血管ですが,生後間もなくこれが閉じてしまいます.左心系と大動脈が正常に機能している限りは閉じるべきなのですが,この病気の赤ちゃんにとって「動脈管」の存続は生命の維持に関わる重大な問題です.「ノーウッド手術」によって人工的なバイパスを形成するまでは,何とかこれを維持する必要があります.

そこで「動脈管」を延命させるわけですが,その処置としては「プロスタグランジン」の投与が一般的のようです.

「プロスタグランジン」は血管拡張作用がある成分のようで,胎児の期間はこの成分が相対的に多く含有されているようです.しかし,生後間もなくこの成分量が減少し,次第に「動脈管」は閉じていきます.それだと困るから,敢えて人工的に「プロスタグランジン」を投与して「動脈管」を無理やりこじ開ける必要があるのです.

左心低形成症候群の子供について,出産前に病気を発見できなかった場合には,生後3日程度でチアノーゼの症状が出るのですが,それは動脈管が閉じかかっていることが主な原因になるそうです.ですから,この処置は生後間もなく行う必要があります.

f:id:MoriKen254:20160826003105p:plain

ただし,副作用もあります.投与量を適切に調整しないと,「アナフィラキシーショック」「意識消失」「心不全」等の重大なリスクもあるので,24時間体制で様態を観察してもらう必要があるのです.

この段階では,赤ちゃんは綱渡り状態で生存していると言わざるを得ません.放っておけば間違いなく死に至る体なので,生きていてくれるだけでもありがたいことなのですが….

0.5. 肺動脈絞扼術(肺動脈バンディング)

「ノーウッド手術」の前段階に施す手術です.通常「動脈管」は出生後数日後に閉じてしまうようなのですが,本手術により「動脈管」を延命させられるようです.「ノーウッド手術」は開腹手術であり,生後間もない赤ちゃんの心臓にも身体には過大な負担がかかります.そこで,生後ある程度成長させた上で手術をできるようにすることで,手術のリスクを低減させる狙いがあるようです.←これは誤りです.大変申し訳ございません.

  • 背景

    • 「ノーウッド手術」は小児心臓外科手術の中でも最も難しい手術の一つと言われており,赤ちゃんにかかる負担も多大です.
    • そこで,ある程度赤ちゃんを成長させてから手術をするように計画する方が,赤ちゃんが出生直後よりも体力を備えた状態で手術に臨むことができたり,成長により臓器が大きくなることで外科医が手術をしやすくなるといったメリットがあります.
    • ただ,無尽蔵に長引かせることはできません.プロスタグランジンで「動脈管」を延命させられる期間にも限界がありますし,左心系の欠陥があるために何も考えずに手術時期を遅らせるのは難しいようです.
  • 問題

    • 「左心低形成症候群」の赤ちゃんは,左室から全身に伸びる「大動脈」が非常に細いため,血液が卵円孔を経由して「右心系」に流れてしまいます.多く流れた血液は当然肺に到着するわけですが,出口である「左心室」「大動脈」が機能不全を起こしているので,まともに血液が流れず,肺に血液が溜まってしまいます.
    • 肺に血液が流れ過ぎると,肺の血管に負担がかかりすぎて血管が固くなってしまい,肺血管抵抗や,肺血圧が上昇して,心臓の手術をする前に肺まで正常に機能しなくなってしまう恐れがあります.
    • あるいは,肺に血液が溜まってしまい「血胸」を起こし,「呼吸不全」になる恐れもあります.
    • また,ただでさえ機能不全である左心系に多量の血液が流れこむため,心臓に過度な負担をかけることになってしまい,「心停止」となる危険性もあるようです.
    • こういう症状を誘発するタイプの心疾患を,「肺血流増加型心疾患」と呼ぶようです.

f:id:MoriKen254:20160826003636p:plain

この症状を軽減するために,「肺動脈絞扼術」を行います.肺動脈を縛ることで,流れすぎてしまう血流量を人工的に制御するのです.

肝心の心臓の手術をする前段階として,肺関連の手術を行っていることがポイントです.乳幼児の場合,身体が小さすぎて手術が困難であったり,病気の重症度に寄っては1回の手術で処置が完了できない場合があります.そういう時に本質的な手術を行う前の準備的な手術を総じて「姑息手術」を呼びます.名前からはせこそうな印象を受けますが笑,命を確実に救う確率を向上させるために必要な手術で,決して軽視してはいけない手術ですし,むしろ「姑息手術」を如何に上手に行うかに寄って予後に大きく影響するのです.

一方,最終的に症状を治すために行う手術は「根治手術」と呼ばれます.左心低形成症候群の場合,「フォンタン手術」がこれに相当します.

これでどうにか赤ちゃんを延命させることができるのですが,これもそうそう長く持つわけではないようです.無理やり血管を閉じている状態なのですが,身体の成長によって適切な閉じ具合も変動してくるようで,いつまでも同じバンディングさせておくわけにもいかないようです.場合によっては再開胸してバンディングの調整を行うこともあるようです.また,あまり長くこの状態を続けていると「肺動脈」が詰まったような状態が続き,「狭窄」を引き起こす危険性もあるとのことです.

「姑息手術」である以上,どうしてもこういう不安定な状態が続くリスクがあるため,24時間体制で見張りながら「ノーウッド手術」までの時間稼ぎをする.これが,「肺動脈絞扼術」のミソだそうです.

1. ノーウッド手術

さて,本丸の「ノーウッド手術」は,現存する全心臓手術の中でも最も難易度が高いのものに位置づけられるようです(→参考).本リンクの情報によると,術後の成功率は75%のようです.30年ほど前にノーウッド手術が考案される前は不治の病であったことを考えると,ここまで生存率が向上したことは恵まれた状況と言えます.それに,最新の調査結果であれば生存率が改善されている可能性もあります.

さて,本段階では,生後閉じてしまう動脈管の機能を,人工的に作り込むようなものだと理解しています.下図のようなイメージです.

  • ポンプモデル Ver. f:id:MoriKen254:20160517195210p:plain

  • 心臓イラスト Ver. f:id:MoriKen254:20160528213902p:plain

これにより,「動脈管」が閉じてしまうリスクとは一旦おさらばできそうです.ちょっと,流れを解釈してみます.

今後使えなくなってしまう「動脈管」は取り除き,代わりに「肺動脈」「大動脈」に繋ぎます.

  • ポンプモデル Ver. f:id:MoriKen254:20160517200559p:plain

  • 心臓イラスト Ver. f:id:MoriKen254:20160528214030p:plain

これで,今後は「動脈管」に頼ることなく,右心系から全身に血を送ることができるようになります.ところが今度は,このままでは肺に血を送ることができない状態です.

そこで,繋ぎ直した大動脈から肺動脈に対してバイパスできるように,人工血管によるバイパスを取り付けます.そうすると,本節冒頭に掲載した,「ノーウッド手術後」の形となります.

このバイパスを「シャント」と呼ぶらしいのですが,バリエーションが色々あるらしいです.ですので,上図で示した「シャント」は一例であり,子供の様態に合わせて使い分けるようです.代表的なものとしては,「BTシャント」「佐野シャント」があるようです.この辺りは追々追記しようと思います.

ひとまず,これで全身に血を行き渡らせることはできるようになりました.しかし,大静脈からやってくる血液は直接肺に送られるわけではありません.心臓を介して,しかもバイパスから流れる分の血液しか送ることができないので,効率的に酸素を取り入れることができず,チアノーゼの症状が表れてしまうようです.

  • チアノーゼ(引用:ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典)

    紫藍症ともいう。血液中の酸素が欠乏して皮膚や粘膜が紫藍色になることをいう。心臓病,肺炎,肺結核などのほか,局所の血行障害でも起り,四肢末端,口唇などに強く現れる。また中毒など急性の病変,あるいは重態に陥った場合にも認められる。

そこで,大静脈から流れる血を心臓を介さず直接肺に送ってあげようという発想が生まれます.

2. 両方向性グレン手術

大静脈は「上大静脈」「下大静脈」の2種類から構成されます.それぞれ,上半身と下半身から流れてきた血液を運ぶための経路となっています.下図の左側の上下に伸びる青紫色の血管が,それに相当します.

f:id:MoriKen254:20160516210550p:plain

出典:心臓, Wikipedia, as of 2016/05/16.

ノーウッド手術完了後の循環系では,この両方の経路の血液が心臓を介して肺に流れるようになっています.

「両方向性グレン手術」では,このうち「上大静脈」の血液を直接肺に送れるようにするものです.本リンクの情報によると,術後の成功率は95%のようです.

これまで扱ったモデルを使って描けば,下図のようになるでしょうか.

  • ポンプモデル Ver. f:id:MoriKen254:20160517202846p:plain

  • 心臓イラスト Ver. f:id:MoriKen254:20160528220852p:plain

「ノーウッド手術」で一時的に人工血管で繋いでいた「肺動脈」への経路を切断し,「上大静脈」「肺動脈」につなぎ替えています.

  • 余談

    ちなみに,図中で「肺動(?)脈」という表現の仕方をしているのは,完全に個人的な発想です.ポンプで勢いづけられていないのに「動脈」という位置付けになるのだろうか?という素朴な疑問です.インターネットで調べる限りは,この血管の名前が変わることはないようなので,気にしないで下さい.

さて,この手術が成功すると,チアノーゼが軽減するようです.ところが,まだ「下大静脈」の血液は心臓を経由するため,「大動脈」側に酸素の少なくなった血液が流れてしまっています.こままでは,チアノーゼの症状は残ってしまいます.そこで,最後の仕上げとして「下大静脈」の血液も「肺動脈」に繋げるため,次の段階に進むことになります.

3. フォンタン手術

仕上げとして,「下大静脈」「肺動脈」に直結させることで,全ての「大動脈血」を直接肺に送れるようにする手術です.本リンクの情報によると,術後の成功率は90%のようです.

  • ポンプモデル Ver. f:id:MoriKen254:20160517205102p:plain

  • 心臓イラスト Ver. f:id:MoriKen254:20160528220930p:plain

ようやく,紫色の血管をなくすことができました.これでチアノーゼは回避できる,のだと思います.ただし,「グレン手術」では人工血管を使わなかったのですが,本手術では人工血管を使用することになります.構造の制約上,そうなってしまうのでしょう.このため,血液をサラサラにする薬を飲んだり,食べ物に気をつけたりする必要があるようです.

ちなみに,本手術を施すには条件があるようです.上図を見ての通り,「フォンタン手術」後は単心系で全身に血液を送れなければならないので,右心系がそれなりに強くないとそもそもこの循環系統(フォンタン循環)が成り立たないようです.そこで,通常はフォンタン手術前に複数回心臓カテーテル検査を行い,肺血管抵抗を計測し,「右心系」「フォンタン循環」に耐えうるかを判断する必要があります.そこで合格して晴れて,本段階にたどり着けるわけです.なかなか道は険しいようです.

描き直す

最後のフォンタン手術後の絵を,当初のシンプルなモデルに描き直すと,下図のようになります.ようやく冒頭の完成形の図まで戻って来られました.

f:id:MoriKen254:20160517205558p:plain

ここまで確認した上で,インターネットでよく見かけるよりリアルな心臓の絵を見ると,何となく分かったような気になれます.

f:id:MoriKen254:20160528221010j:plain

出典:左心低形成症候群, 難病情報センター, as of 2016/05/16.

おわりに

「左心低形成症候群」を治療する唯一の方法である手術の概要について,イラストを交えて解釈をしてみました.心臓の血管を何度も付け替える大規模な手術であることが,分かりました.

あっくんよ,君がこの手術に耐えられる身体で生まれてくれるように,おかーちゃんは引き続き体調管理を頑張ってくれているよ.頼むから,この試練を乗り越えておくれ.

参考文献

  1. コハクの特別な心臓, コハク.COM, as of 2016/05/16.
  2. 左心低形成症候群とは, あっくんと生きる, as of 2016/05/17.
  3. 左心低形成症候群, Wikipedia, as of 2016/05/17.
  4. ノーウッド手術, Wikipedia, as of 2016/05/17.
  5. フォンタン手術, Wikipedia, as of 2016/05/17.
  6. 心臓カテーテル検査, Wikipedia, as of 2016/05/17.
  7. 動脈管, Wikipedia, as of 2016/05/17.
  8. 左心低形成症候群, 難病情報センター, as of 2016/05/17.
  9. Merck Research Laboratories, The Merck Manuals Online Medical Library, 左心低形成症候群, as of 2016/05/17
  10. 櫻井, 左心低形成症候群に対する治療方針についての考察, 日本小児循環器学会雑誌, Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery 31(3): 108-110 (2015)
  11. 静岡県立こども病院, 肺動脈バンディング, as of 2016/05/17.
  12. チアノーゼ, ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典, コトバンク, as of 2016/05/17
  13. フォンタン手術, 国立成育医療研究センター, as of 2016/05/17
  14. こどもの心臓病と手術―不安なパパ・ママにイラストでやさしく解説/患者説明にそのまま使える