励ましのお言葉等を下さった皆様、誠にありがとうございます。取り急ぎお礼の返答とすること、ご容赦頂けましたら幸いです。
さて、前回のエントリで、緊急手術が必要になるのではないか?というお話をしました。
この手術の件は、見送りとなりました。
その経緯を、取り急ぎ文字で説明します。余裕ができたら絵も追加します。
なぜ見送りとなったか?
実は、閉塞したシャントが形成された箇所は、色々試行錯誤した結果、結構いい感じの場所を見つけて決めたらしいんです。
またお腹を開けて手術をしたとしても、それ以上に流れの良い場所を見つけられる見込みは低いとのことです。
また歯切れが悪いのですが、どういうことかと言うと、
となると、オペによって見込まれるでっかいリスクやダメージに対して、得られる効果が全く釣り合わないので、患者の予後を考えても見送るのが妥当。
というのが、外科医の判断となったようです。
じゃあ、どうするのか?
まずは薬物療法
前回もお話した通り、引き続き、内科的処置を継続することになります。
どんな薬を入れるの?
血栓を溶解する効果を持つウロキナーゼや、抗凝固薬であるヘパリンを点滴投与します。
しかし、既に血栓ができて数日経ったと思われる以上、あまり効果は期待できません。
なんであまり効果が見込めないの?
それに、もともと抗血小板剤であるアスピリンや抗凝固薬であるワーファリンを経口投与しており、点滴をしなくてもそれなりに血液の粘度は低い水準にあるのです。
だから、上記の点滴を追加投与することは、実を言うとあまりお行儀の良いことではないようです。なぜなら、術直後はただでさえ吻合部から出血しやすい状態なのに、それを悪化させる方向に作用してしまうからです。
とは言え、内科としては何もしないわけには行かない。というわけで、術部への影響をソコソコに抑えられる程度に、じんわり点滴をいれないといけない。
という事情も相まって、あんまり期待できそうにないのです。
現に、ウロキナーゼは2日間投与して、既に離脱されています。
やっぱりカテーテル
頼みの綱
さぁ、外科は手術をしないと言います。内科は投薬は効果が期待できないと言います。となると、頼みの綱はやはりカテーテルです。
閉塞したシャントにバルーンを留置するんだそうです。
カテも結構難しいらしい
とは言え、今回形成したシャントの位置は、カテーテルの侵入が非常に難しいとのことです。
有効性の高い従来手法である冠動脈に対するカテーテル治療法を応用することが検討されるようですが、これに種々のテクニックを施したとしても、やっぱり難しいと言わざるを得ないようです。
相当経験があると言われる主治医でも、難しそうな顔をしていましたので。
タイミングも難しい
カテをいつやるか、という問題もあります。
内科としては、入院しているうちにカテを施してあげたいという思いがあるようです。その方が、再入院の負担も軽減できますし、閉塞が起きてから比較的日が浅いというのもあると思います。
一方、外科としてはこれを否定します。まだ術後の日数が浅いので、シャント吻合部の連結が不完全であると考えており、カテによって吻合部の剥離等が起こるリスクを懸念しています。
だから、外科としては一旦退院させて体制を整えてからカテをしてくれという主張のようです。
結論が出るには、もう少し議論を重ねる必要があるとのことです。
なぜシャントが閉塞したのか?
真因は側副血行路
やはり、左肺動脈に伸びた側副血行路からの血流がそれなりに多く流れているために、シャントからの血液が途絶えてしまったと考えるのが妥当とのことでした。
打開策は?
側副血行路を遮断することができればそれに越したことはありません。
内胸動脈からの側副血行路等、ある程度の太さがある血管については、カテーテルによるコイル詰めである程度詰められるようです。
しかし、それ以外の細かいウジャウジャした血管を効果的に遮断する手段は確立されていないようです。
それに過去の経験上、太い血管経由の側副血行路を詰めたところで、肺動脈フローの改善はあまり見込めないようなのです。側副血行路全体の血流の中でも、ウジャウジャ血管が占める血流はそれなりに高い割合である確率が高いようで、リスクの割に効果が薄いという例のあれの状態です。
じゃあ外科的な手法で詰められないのかと聞いたのですが、やっぱりそれも難しいとのことです。
積んでいる
もうお気づきですよね。
だってそうでしょう?
薬による血栓除去は期待できないよ。
シャントのバールンはやってみるけどマジ激ムズだよ。
側副血行路のコイル詰めの効果も見込めなそうだよ。
ここまで来ると、いわゆる純粋なフォンタン循環を期待するのは、少々酷な要求かもしれないわけですね。
HLHSの中でも、検査結果が極めて良好にも関わらず、こういう方向に触れるのは非常に稀というか、過去の症例からはそうそう想定しにくい状況だったようです。
あっくん、君のこの症例が、未来の赤ちゃんを救うかもしれないな!でかした!
というジョークはこの辺して。
まぁとは言えですよ、積みつつある中であっても、策が無いわけではないのです!まだまだ諦めるのは早いのです!!!
やれることがあるんですから、やりきるまで前進するのみなのだ!
今後の方針は?
おそらく、今後の濃厚なのは次の3択。
2. 穴あきフォンタン循環
3. 片肺フォンタン循環
とりあえず、現状でヒアリングできたメリット・デメリットを挙げてみます。
1. 右肺動脈のみのグレン循環
最も妥協的な選択肢です。
低サチュレーション状態(チアノーゼ)が改善されないことが理由で、腎臓に悪影響が出る可能性があったり、運動制限が必要になるリスクがあるとのことです。
2. 穴あきフォンタン循環
下大静脈を右肺動脈に直結される手術を行います。
その上で、下大静脈から左肺動脈に対してシャントを形成する方針かと思います。これで、多少なりとも左肺動脈のレスキューを試みるとうものです。
ただ、左肺動脈は細いままですし、そもそも大動脈よりも血圧の低い下大静脈からのシャントでは、結局そこも閉塞するリスクが高そうな予感がしますし、構造の制約上この形が本当に妥当なのか、素人の私にはよく分かりません。
仮にシャントで左肺動脈へのフローを確保できたとしても、この循環ではチアノーゼは回避できません。
せっかくフォンタン手術をしたのにチアノーゼが回避できないのであれば、グレン循環を継続することに対して十分なメリットがないとこの方策を取るわけには行きません。
その上で、純粋なフォンタン循環が抱える最大のリスク、うっ血まで抱えることになると考えられます。
わざわざ手術してダメージを与えて、ゴチャゴチャ血管をいじって構造を複雑にしたにもかかわらず、チアノーゼは改善できないままうっ血のリスクを追加で抱えさせることのメリットが、現状の私のヒアリング結果からは判断できません。
この辺りは、次回主治医にヒアリングします。
3. 片肺フォンタン循環
2と同様、下大静脈を右肺動脈に直結される手術を行います。
この方策では左肺動脈へのシャントは無しです。よって、チアノーゼは改善されます。これが最大の魅力で、チアノーゼが改善されれば酸素が不要になる見込みがあるわけです。
ただし、両肺フォンタンですら最大の懸念事項であるうっ血のリスクがより強く顕在化してしまいます。
現在うじゅうじゃ伸びている側副血行路くんがうまく作用してうっ血を抑えられる可能性も、不確実ながらあるのかなー。そうなると今度はチアノーゼが回避できない…。
もうね、分岐が増えてきたから、まじめにフローチャート改版したらやべーことになりそう笑。
チアノーゼ or うっ血のトレードオフ
ここまで来ると察することができると思いますが、チアノーゼのリスクとうっ血のリスク、どちらをどの程度許容するのが良いかを評価することになると考えられます。
とは言え、どうも片肺フォンタンやグレン循環の長期的予後の症例が現段階では不足しており、中々比較検討が難しいようです。
こうなると、後は間接的に得られるデータや、医師のインスピレーション、統計的な有意性を検証できない仮説にまで手を出した上で、ある意味「予想」であっくんの将来を占う必要が出てくるということです。
理系(工学ですが)で生きてきた私としては、なんともこの客観性を欠いてしまうシナリオに対してむず痒い思いを抱くところなのです。
医療ってめっちゃ大変
とは言え、理系だからこそ、医師の抱える苦しい事情も、うっすらですが見えてきます。小児で心疾患、しかも左心低形成症候群(以下、HLHS)とか、世界的に見ても相当サンプル少ないでしょうし、個体による症状のバラツキが大きすぎてフェアな比較をすること自体がめちゃんこ難しそう。
それに、そもそもHLHSの治療方法が確立されたのもここ10~20年程度であり、歴史としては浅いという事情もあるようで、長期的な予後を予測するのも一苦労でしょう。(それより前に生まれていたら、出生後即死亡という不治の病だったのですから、ここまで元気でいてくれていることは、本当にありがたいことなんだと実感しています。)
更に、まともにHLHSを治療できる病院だって世界的に見ても非常に限られているようで。
となるとですよ?
はてはて、こんな劣悪な条件下で、どうやってフェアな条件揃えて、客観性と再現性を担保した有効な治療方法を提案してくのだろうかと考えると、その苦労は計り知れないものがあるのが、容易に想像できます。(仮説検定通すの大変だろうなーとか、余計な心配をしています笑。)
医師とのやりとはバランスが大切そう
まぁ何はともあれ、色々回り道をすることはありますが、本当にここの医師ってすごく尽力してくださっているなぁと言うのが、私の正直な感想です。
主治医とやり取りする際には、(こっそりと笑)発言のロジックに注意してきましたが、ここまで終始一貫して、少なくとも論理的には一切間違ったことは発言していません。質問に対する回答も、変に回り道せずに端的かつ的確なので、いつもストンと腹に落ちます。マジで相当頭のいい人だと思います。
ただ、あまりに論理的に正しすぎる発言をするがゆえに、理路整然かつ淡々とした説明をする側面があるので、感情面で刺激してしまうところはあるかもしれませんね ^^; 幸か不幸か、変人の私としては、逆にいくら人が良くても筋が通っていなかったり、曖昧な発言や嘘・気休めではぐらかされそうだと察すると、事実に基づいたまともな論理武装もできない医師なんて信用できるかー!?キー!っとなるタイプなので、波長が合ってしまうんですが ^^;
理詰めで行くべきところはとことん理詰めで行き、必要に応じて感情に配慮できるようなコミュニケーションが取れるの良いんだろうな、とか思う今日このごろです。これは医師と患者に関わらず、人とのコミュニケーション一般に通じる話だとは思いますが ^^;
おわりに
まぁ、なんか脱線した気もしますが、要は、
でも、今後もカテーテルとか入れ込みながら、引き続き諦めないで頑張るぞい!
的なお話でした ^^;
だからってあっくんのこと見捨てたりしないよ。今君に施せる最善の治療を、お医者さんと一緒に考えていくからね。あっくんも引き続きよろしくね!
あっくん:お医者さんごっこですか!楽しそうですねー!私も混ぜて下さいよ!私、失敗しないんで!
おとーちゃん:またそれですか。ていうか、ごっこではなくて、ガチのお医者さんが君に付いていてくれているのですよ ^^; いいからちゃんとご飯食べて、今後もしっかり体にお肉つけてくださいね、あっくんよ。