あっくんと生きる

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「左心低形成症候群」と診断された息子の闘病記+親の感情

左心低形成症候群とは

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はじめに

「左心低形成症候群」は数万人に1人の赤ちゃんに発症するという,マイナーな病です.医者でもない限り,診断を受けて初めてこの病気を知る事になる場合が大半だと思います.

診断を受けて間もなく気が動転する中,調べてもどうやら難病であるということは分かるのですが,心臓の絵をパッと見たところで,何がどうなっているのやらを素人が理解するのはとても難しかったです.

そこで,インターネット上で調べた情報を基に自分なりに解釈した内容を,イラストを添えながら記述することにします.同じ病気を患った子を授かったご家族にとって,病気を正しく理解するきっかけになれば幸いです.

下記書籍も大いに参考にさせていただきました.

ただし,私は医学の専門家でも何でもないので,ここに記載した内容を保証は致しません.ご自身の理解と照らしあわせたり,参考にする程度に止めていただくよう,よろしくお願い致します.

左心低形成症候群の特徴

素人が調べたレベルの情報です.医療技術の発展により治療方法が改善される可能性はあります.

概要
  • 生まれつき心臓の左心系が小さいという病気.
  • 数万~10万人に1人の赤ちゃんに発症する原因不明の難病.
  • 種々の先天性心疾患の中で最も重篤な疾患の1つ.
  • 生後積極的に治療をしなければ確実に死に至る.
    • 1週間で70%が,1ヶ月でほぼ100%が死に至る.
  • 厚生労働省の指定難病にリストアップされている.
治療
  • 治療方法は心臓手術のみ.手術(ノーウッド)は特に難しく,成功しても予後は悪いと言われる.
    • 近年改善しつつある.
    • が,施術・術後管理ができる医療機関は全国的にも限られている.
  • 全ての手術に成功したとしても,一生心臓が弱い状態であることは変わらない.
    • 心臓が「単心系」となるのは免れないため.

難しい手術は必要だけど,治療できないことはない.ただ,完治は無理っす,という感じかと思います. 文字だけ見てても何かイメージが湧かないので,以降心臓の構造に着目して病気を解釈していこうと思います.

心臓の構造を簡単に振り返る

心臓のことは,中学の理科で習ったような,習っていないような記憶がありますが,やっぱりよく覚えていないので,今一度振り返る必要があります.

心臓は,血液の循環を行うポンプの役割を持っています.ポンプは大別して「右心系」と「左心系」の2種類が存在します.

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出典:心臓, Wikipedia, as of 2016/05/16.

心房と心室

各系は心房と心室から構成されていて,次のような役割を持っています.

  • 心房

    • 上流に位置し,血液を貯めておくプールのような役割.
  • 心室

    • 下流に位置し,心房から受け取った血液を収縮によって送り出すポンプの役割.

左心系と右心系

こんな役割をもった心房と心室をセットにしたものが,心臓の左右に1つずつ存在しています. 左右それぞれの役割は,下記のとおりです.

  • 右心系

    • 全身から流れてきて勢いが弱まった血液を「大静脈」から受けとり,
    • ポンプによって勢いづけた血液を「肺動脈」に送り込む.
    • この血液は「肺」に届けられる.
  • 左心系

    • 肺から流れてきて勢いが弱まった血液を「肺静脈」から受けとり,
    • ポンプによって勢いづけた血液を「大動脈」に送り込む.
    • この血液は「全身(脳を含む)」に届けられる.

いずれも大切な役割ですが,どちらが大切かといえば当然「左心系」です.肺で酸素をたっぷり取り入れた綺麗な血液を,脳を含む全身に送り届ける役割があるからです.

下記のサイトで見られる動画を見ると,心房と心室の動きがリアルに分かります.

【動画】正常な心臓の収縮・拡張と弁の動きの動画 サンプル動画, medic, as of 2106/05/16

簡単なイラストにしてみる

ところが,私はこのリアルな心臓の絵がどうも苦手です.血管が入り組んでいて,どうもしっくり頭に入ってこないのです.なんとかもっとシンプルに解釈できないものかと思っていました.

下記のサイトがとても分かりやすく,以降の作図のアイデアの参考にさせていただきました.

また,心臓の動きをポンプのイラストを使ってモデル化した以下の動画も,とても分かりやすいです.

これらの情報を参考に循環系をシンプルに描いてみると,下図左側のようになるかと思います.右側には,実際の心臓と対応付けられることを狙って,リアルな心臓を若干シンプルにした絵を添えてみました.絵心がないのは,ご容赦下さい笑. f:id:MoriKen254:20160527221826p:plain

以降,この図をベースに「左心低形成症候群」について解釈していきます.

左心低形成症候群の症状

概要

左心低形成症候群の子供の心臓は,2つの大きな欠陥があるようです.

  1. 左心系が小さいので,そのポンプ機能が果たせない
  2. 大動脈が細いので,全身に血を送れない

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これは大変なことです.脳に血液が送られなければ,人間は生存することができません.

しかし,この病気を患った赤ちゃんは,お母さんのお腹の中では元気に育つことができると言うのです.どうしてでしょうか?

その辺りの疑問を,素人目線で解釈していこうと思います.

卵円孔開存(心房中隔欠損症)と動脈管

「左心低形成症候群」を象徴する大きな2つのキーワードが,「卵円孔開存(心房中隔欠損症)」「動脈管」のようです.この病気の赤ちゃんはこの2つの症状が必ず併発しているとのことです.

何やら難しそうな言葉が出てきてビビってしまいます.順番に,簡潔に整理して行きたいと思います.

卵円孔開存

まず前者の「卵円孔開存(心房中隔欠損症)」です.まず,「卵円孔」とは何ぞや,という疑問が浮かんできます.

「卵円孔」とは,赤ちゃんがお母さんのお腹の中にいる間に,右心房と左心房の間に開く小さい穴のことを指すようです.卵ような形をしている穴ぽこ,と言った位置づけらしいです.

胎児の間は自分の肺を使用しないので,前述したような右心系と左心系による循環系統が成立しなくても,血液を酸素化できるようなのです.そんな状況下では「卵円孔」が存在することで,より迅速に血液を循環させることができるようなのです.母の力の賜物です.

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本来は「右心房」→「左心房」というルートで血流を促す機能を備えているようなのですが,「左心低形成症候群」の心臓の場合には,そもそも左心系に血が流れにくくなってしまっています.そのため,本来とは逆である「左心房」→「右心房」のルートで血が流れるという現象が起こるのですが,病気の治療上はこの特性を利用してしまおうというわけです.

通常,赤ちゃんが生まれて肺が機能すると,この「卵円孔」は閉じていくようです.しかし,これが閉じないという状態が度々起こるようなのです.この症状を「卵円孔開存(または,心房中隔欠損症)」と呼ぶようです.読んで字の如く,「卵円孔」が開きっぱなしになってしまっている,ということです.後者のほうがより直接的な表現ですね.この病気は,4人に1人程の割合で起こるようです.「左心低形成症候群」の赤ちゃんもこれを発症しているようなのですが,穴がない場合はカテーテルで人工的に穴を開ける処置を施すようです.

酸素たっぷりの血液と,酸素が抜けた血液が混ざってしまうので,100%健全な心臓に比べれば良くはないのでしょうが,致命的な合併症が無い限りは特に治療する必要はないようです.自分がこの症状であることを知らずに生活している人が多いというほど,日常生活に大きな支障は起こらないらしいです.

これだけならさほど問題とはならないのですが,「左心低形成症候群」の赤ちゃんは,左心系が小さい上に大動脈が細いので,全身に血を送れないことが大問題なのです.

では,どうやって全身に血を送り届けているのか?それを握る鍵が「動脈管」です.

動脈管

さぁ,「動脈管」の登場です.こいつは胎児の命綱であると同時に,厄介な存在でもあるのです.

赤ちゃんがお母さんのお腹にいる間は,やはり肺循環無しでも効率的に血を送れるようにするために,肺動脈から大動脈へのバイパスが存在しているようなのです.だから,左心が小さくてもちゃんと全身に血を流すことができ,お腹で元気に動き回っちゃってくれちゃうわけです.このバイパスこそが「動脈管」です.

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ああ良かった,これで赤ちゃんが生きていける.そう思ったのも束の間,これには大きな落とし穴があります.そう,「動脈管」も出生後に赤ちゃんが肺呼吸を始めると,閉じてしまう運命にあるのです. しかも厄介なことに,「卵円孔」の時のみたいに開けっ放しにする処理をすれば良いという発想は生まれるのですが,そう単純な話ではなさそうなのです.

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そうなると,どういう結末になるでしょうか…?機能を失ってしまう器官をイラストから取り除くと,一目瞭然です….

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全身に血を送り届けることができなくなり,間もなく死に至ってしまいます.これが,「左心低形成症候群」の恐ろしさです.

もちろん,「全く血が送られない」という描き方は極端な表現です.一応左心系が機能はしているけど血の流れる量が少ないという場合もあったり,その症状の程度は赤ちゃんによってばらつきがあるようです.

左心低形成症候群の治療方法

では,これをどう治療していくのか?本エントリ執筆時点の医療技術では,心臓の血管を付け替えるという大規模な手術をするしか,子供を助ける方法は無いようです.

私が理解した範囲において,その手術後の循環系の完成図をシンプルに描き起こすと,下図右側のようになります.

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本来ポンプ2個で活動するはずの循環系を,1つのポンプで,しかも本来とは違う役割を担わせるような手術を施すようなのです.何か,もうギリギリのラインで生かしているような感じがして,描いている私自身がソワソワしてしまいました.

本当にこんなことができるのか!?と同時に,こんな状態にするために一体どんな手術をしてやることになるのか!?そんな感情を抱かずにはいられません.全くもって未知の世界です.

というわけで,次回の「左心低形成症候群の手術について」で,この治療方法について解釈を進めていこうと思います.引き続き素人目線で.

www.akkun-ikiru.com

参考文献

  1. 心臓, Wikipedia, as of 2016/05/16.
  2. 【動画】正常な心臓の収縮・拡張と弁の動きの動画 サンプル動画, medic, as of 2106/05/16.
  3. 心臓の構造と機能|心臓とはなんだろう(1), 看護roo!, as of 2106/05/16.
  4. 【動画】心臓ポンプモデルの動画 サンプル動画, medic, as of 2106/05/16.
  5. 左心低形成症候群, Wikipedia, as of 2016/05/16.
  6. 左心低形成症候群, 難病情報センター, as of 2016/05/16.
  7. コハクの特別な心臓, コハク.COM, as of 2016/05/16.
  8. 卵円孔開存, healthline, as of 2016/05/16.
  9. 立石, こどもの心臓病と手術―不安なパパ・ママにイラストでやさしく解説/患者説明にそのまま使える,メディカ出版,2011.