あっくんの左肺動脈閉塞が判明した経緯は前回のエントリで記述しました。
今回は、これにかかる治療方針について説明します。今後起こりうる事の全体像が分からないと、皆が不安になります。
とうわけで、肺動脈閉塞の判明で、どれほど治療方針に影響が出るかを、なんとなくイメージできるような説明を試みます。
今まで想定していた治療方針
ノーウッド・グレン手術後のあっくんの様態は極めて良好と言われておりましたので、私達の脳内フローは下図のようになっておりました。
いや、もちろんちょっとした不調ぐらいはあるだろうとは思っていましたよ。
ただ、このまま順調に行けばフォンタン手術だぜヤッホイ!的な感じだったことは否めません。完全に油断をしておりました、はい ^^;
今回の肺動脈閉塞の通知を受け、ちょっとばかりうろたえてしまった部分はありました。
今後想定される治療方針
フローチャートで把握
この度、あっくんの左肺動脈閉塞を受け、方針が(ざっくり)下図のようになりました。
何度か医師と対話を繰り返す中で、ようやくここまで理解が追いつきました汗。
ざっくりで、想定しうるシナリオは9通りとなりました。左のシナリオほど予後が良いと考えられる(手術回数が少ないため)ものです。
どうです?これでも細かいところには目をつむっているのですが、肺動脈が詰まっちゃったってだけで、こんだけ状況が複雑になるんです汗。
肺動脈っていうのは、それくらいやばい存在だったんですね。トホホ…。
層別で把握
まず、考慮すべき項目は大別して下記の4つです。すべての項目がYESとなれば、予後が良いです。どの項目でNOになるかによって、必要となる手術の回数や、根治後の循環系、それに伴うリスクの度合いが変わってきます。
検討1. 大動脈から肺動脈へのシャントを形成する必要が不要か?
- シャントが不要なら手術回数が減る。
- シャントが不要ということは、そもそもシャントが不要なほど肺動脈が成熟しているということである。
検討2. 肺動脈再建をフォンタン手術と同時にできるか?
- 2手術を同時にできるなら当然体力の消耗が抑えられる 。
検討3. 自己組織で肺動脈を再建できるか?
- 人工血管になってしまうと身体の成熟に伴い人工血管の交換が必要。
検討4. 完成形が両肺フォンタン循環か?
- 左肺動脈が再建できれば、根治の理想形である両肺フォンタンに到達可能。
- 左肺動脈が再建できなければ、根治の形態は片肺フォンタンとなる。
- 片肺フォンタンだと、両肺フォンタンに比べて他臓器不全のリスクが高くなってしまう。
真面目に分けようとすると4次元のマトリックスを構成しなければなりませんが、それでは可視化ができません汗。
そこで、重複項目が生じることを承知の上で、2次元のマトリックスで層別を試みた表を示します。パッと見て全体像が掴める!と思っているのは、私だけかもしれませんが…。何も無いよりマシです!
医師とインフォームド・コンセントをするには、ざっくりこのパターンを念頭に入れておかないと、まず話が噛み合いません。私は複数回、直接医師とやりとりできているからなんとなくこれが頭に入っていますが、これを家族に説明しようと思うとキツイです笑。
というわけで、本エントリで図説を試みている次第です。
シナリオ概要
こうして抽出したシナリオID(フローチャート、層別の両者に記載しています)、およびシナリオごとにどのような処置を行うことになるのかを図を用いて説明します。
カッコ内のYES/NOは、前述した考慮すべき項目に対する回答と対応します。YESが多いほど好条件傾向です。
ただし、項目によって重みが異なるので、単純にYESの数だけで評価できません。だから、傾向という単語を使いました。
更に、シナリオによってそもそもYES/NO判定が不要と思われる項目もありますので、それについては-(ハイフン)で表記します。
No.1 シナリオ:[A1-C1]
- 条件
大動脈→肺動脈 シャント |
肺動脈再建+フォンタン 同時術 |
肺動脈再建の組織 | 循環 |
---|---|---|---|
不要 (YES) | 可 (YES) | 自己組織 (YES) | フォンタン (YES) |
- 手術(少なくとももう1回で根治 ※根治については後述)
① 左肺動脈再建(自己組織)+フォンタン同時術 - 手術フローの図説
No.2 シナリオ:[A2-C1]
- 条件
大動脈→肺動脈 シャント |
肺動脈再建+フォンタン 同時術 |
肺動脈再建の組織 | 循環 |
---|---|---|---|
不要 (YES) | 可 (YES) | 人工血管 (No) | フォンタン (YES) |
- 手術(少なくとももう1回で根治)
① 左肺動脈再建(人工血管)+フォンタン同時術 - 手術フローの図説
No.3 シナリオ:[B1-C1]
- 条件
大動脈→肺動脈 シャント |
肺動脈再建+フォンタン 同時術 |
肺動脈再建の組織 | 循環 |
---|---|---|---|
不要 (YES) | 不可 (NO) | 自己組織 (YES) | フォンタン (YES) |
- 手術
① 左肺動脈再建術(自己組織)
② フォンタン手術 - 手術フローの図説
No.4 シナリオ:[B2-C1]
- 条件
大動脈→肺動脈 シャント |
肺動脈再建+フォンタン 同時術 |
肺動脈再建の組織 | 循環 |
---|---|---|---|
不要 (YES) | 不可 (NO) | 人工血管 (NO) | フォンタン (YES) |
- 手術
① 左肺動脈再建術(人工血管)
② フォンタン手術 - 手術フローの図説
No.5 シナリオ:[A1-D1]
- 条件
大動脈→肺動脈 シャント |
肺動脈再建+フォンタン 同時術 |
肺動脈再建の組織 | 循環 |
---|---|---|---|
必要 (NO) | 可 (YES) | 自己組織 (YES) | フォンタン (YES) |
- 手術
① 大動脈→肺動脈シャント術
② 左肺動脈再建(自己組織)+フォンタン同時術 - 手術フローの図説
No.6 シナリオ:[A2-D1]
- 条件
大動脈→肺動脈 シャント |
肺動脈再建+フォンタン 同時術 |
肺動脈再建の組織 | 循環 |
---|---|---|---|
必要 (NO) | 可 (YES) | 人工血管 (NO) | フォンタン (YES) |
- 手術
① 大動脈→肺動脈シャント術
② 左肺動脈再建(人工血管)+フォンタン同時術 - 手術フローの図説
No.7 シナリオ:[B1-D1]
- 条件
大動脈→肺動脈 シャント |
肺動脈再建+フォンタン 同時術 |
肺動脈再建の組織 | 循環 |
---|---|---|---|
必要 (NO) | 不可 (NO) | 自己組織 (YES) | フォンタン (YES) |
- 手術
① 大動脈→肺動脈シャント術
② 左肺動脈再建(自己組織)
③ フォンタン同時術 - 手術フローの図説
No.8 シナリオ:[B2-D1]
- 条件
大動脈→肺動脈 シャント |
肺動脈再建+フォンタン 同時術 |
肺動脈再建の組織 | 循環 |
---|---|---|---|
必要 (NO) | 不可 (NO) | 人工血管 (NO) | フォンタン (YES) |
- 手術
① 大動脈→肺動脈シャント術
② 左肺動脈再建(人工血管)
③ フォンタン同時術 - 手術フローの図説
No.9 シナリオ:[B2-D1]
- 条件
大動脈→肺動脈 シャント |
肺動脈再建+フォンタン 同時術 |
肺動脈再建の組織 | 循環 |
---|---|---|---|
必要 (NO) | 不可 (NO) | ー | 片肺フォンタン (NO) |
- 手術
① 大動脈→肺動脈シャント術
② 片肺フォンタン同時術 - 手術フローの図説
あっくんは今どの段階にいるのか?
先日行った緊急手術では、最初の分岐を評価する段階にありました。
そこで「シャント不要」となればバンザイだったのですが、実は左肺動脈はかなり細くなってしまっていたようです。
手術がどんどん増える
よって、「シャントは必要」となり、シナリオ No.1, No.2, No.3, No.4 は棄却されました。つまり、カテ評価の段階で追加されることが決まった肺動脈形成をする前段階として、更に姑息手術をもう1つ追加されているのです。つまり、少なくとも合計2回の手術が追加されたということです。
今回は、その2つ追加された手術のうちの1つの姑息手術が成功した、という位置づけなのです。したがって、成功とは言ってもなんとなく±ゼロ?と感じてしまう部分はあるかもしれません。
成功は成功!
とは言え、成功は成功!まだチャンスがあるということです!
少しでも前進したことは、あっくんにとってはプラスなのです!三歩進んで二歩下がったっていいんです。七転び八起きで、最後まで付き合いますよ。
だって、あっくんが生まれるずっと前に、そんな決意はとっくに済ませているのですから。
補足:根治とは
説明上「根治」という単語を使用しましたが、少なくともあっくんの病気に関しては、これは心臓病が完全に治癒されることを指すものではありません。
左心低形成症候群の場合、フォンタン手術が根治手術となりますが、これはあくまでチアノーゼのない状態に達することが大目標となっております。この代償として右心系の機能を生贄に捧げることになるので、「単心室」となることが絶対に避けられません。
つまり、最も理想的にことが進んで「根治」したとしても、慢性疾患を抱えた身体障害者として生きていくことが確定しています。あとは、この慢性疾患の程度をどの程度まで抑えることができるか、あるいは「フォンタン循環」という特殊な循環系統故に誘発される他臓器に発しうる障害をいかに抑えることができるかという問題とは、今後も向き合う必要があります。
もちろんフォンタン手術ができることに越したことはありませんが、できたから完全勝利!もう病気とはおさらばさ!という訳にはいかないのです。
そういう意味では、少なくともあっくんの治療については、今手持ちのカードを使い尽くして最善の状態に至ることを「根治」と指しています。
とは言え、どうも紛らわしく誤解を招きやすい表現なので、医療スタッフ以外との会話では使用は避けるようにしています。
おわりに
そんなこんなで、ごちゃごちゃ書いてしまいましたが、これがあっくんの今後の治療方針です(←こんなんでいいのか ^^;)。
まぁ、色々あるけど、多分大丈夫だよね。いつも心配になるけど、結局元気になって帰ってきてくれるもんね。それだけで嬉しいよ。
また一緒に男同士でワイワイ・イチャイチャ遊ぼうな(←やっぱり変態か笑)。
あっくん:なんかゴチャゴチャ言ってますけど、なるようになるんだからあんまり難しく考えないでくださいよ!私、失敗しないんで!
おとーちゃん:それもそうですね ^^; あなたの頑張りを信じて、もう少し気楽にいってみましょうかね ^^